かくれアスペルガーキャリアはむしろ高IQにこそ多いのではないか、という仮説
奥様はアスペルガー | 重力の虹 (via だいぶ前のゴリラブーツ)
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妻に愛情はあるが離婚したい : 恋愛・結婚・離婚 : 発言小町 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
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ここに出てくる「妻」はかくれアスペルガーキャリアなんじゃねーかなあと俺も思った。なお「アスペルガーキャリア」ってのは俺が5秒で考えた造語なので他で使って白眼視されても当方一切関知せず。
さて、俺が思ったというか、つねづね考えていてこういう事例をみるとあーやっぱり、みたいな気持ちになることには、こういう知られざるアスペルガーキャリアの人というのはむしろIQが高い側に多いんじゃないかってこと。
理由の一点としては、この種の症状はIQが高くなればなるほど外から見えにくくなることが挙げられる。以下、発達障害の子どもたち (講談社現代新書) p.111〜112より引用(強調=俺)。
高機能広汎性発達障害では言語発達年齢が九〜一〇歳において、この単純な心の理論課題*1を通過することが明らかになっている。つまり健常児に比べて四〜五年遅れるのである。
言語発達年齢ってのは実年齢ではなく、(言語性)IQが高ければそのぶん実年齢より高いことになる*2。平均的な言語発達の健常児は心の理論課題の通過がおよそ5歳。高機能広汎性発達障害児の場合、言語発達が平均的であれば実年齢でも9〜10歳で通過するが、IQが高い場合にはもっと早く、たとえばIQ160〜170もあれば実年齢6歳前後で通過することになる。もしアスペルガーキャリアだったとしても、これではさして大きく遅れたように見えない。つまり、高IQなほど発達障害のあらわれが見逃されやすくなる、といえる。むろん診断基準はこれひとつではないが、もし子供の様子が多少ヘンであっても、専門家でない保護者や周囲の大人から一見して「遅れているようには見えない」となれば、そもそも診断を受ける可能性じたいが減じられてしまうのではないだろうか。
そしてもう一点。なんの根拠もない俺の思い込みなのだが、アスペルガーキャリアの人はその脳機能の欠損ともいえる特性を補うために、脳がIQを上げる方向に働く傾向があるのではないか。ちょうど目や耳が不自由な人がそれを補うかのようにそれら以外の感覚を鋭くしていくように。同書より続きを引用。
この時点で、アスペルガー症候群および高機能広汎性発達障害の児童は他者の考えが読めるようになってくる。しかし健常児とは脳の異なる部分を用い、異なる戦略を用いて「心の理論」課題を遂行していることが確かめられている。われわれが直感的に速やかに他者の心理を読むのとは異なって、自閉症グループの児童、青年は推論を重ねながら苦労して読んでいるようなのである。
つまりアスペルガーキャリアの人は健常者に備わっている脳の機能が使用不能なために、それを補うかのように異なる部分がいわばエミュレーション的に「心の理論」課題を遂行して外界に適応しようとする。エミュレーションで補うには当然処理能力を余分に必要とするわけで、エミュレーションの要求に適応せんがために脳の処理速度や推論性能を上げる方向にいきやすいのではないか。
もちろんそれ以外の要因のほうが支配的にIQを左右してはいるだろう。だが、もしもアスペルガーキャリアな状態の子供が外界に向き合って、なんだかさっぱりわからないけど外の世界は困難に満ちていると感じたら、そのフィードバックとして脳の発達がなんだかさっぱりわからないけどとりあえず他の要素より論理的に(というか機械的に)物事を考える方向に行こうとする、というシナリオはなんだかありえそうな気がしなくもないのだ。いやもうこれは繰り返すけどなんの根拠もない俺の思い込みなのだけども。
でも、はじめて親族以外の大勢の中――おそらくは幼稚園・保育園や小学校――へ飛び込むとき、たいがいそこは異質なものを排除する、しかも容赦を知らない同年代の子供たちの集団であり、アスペルガーキャリアは大概においていじめの対象となる。さらに同書より引用。
ここで、いじめ体験が重要な要素となる。心の理論通過に前後して激しいいじめを受けてきた広汎性発達障害の子どもたちは、迫害体験があるために、対人関係のありかたを被害的に読み誤ることを繰り返すようになるのである。さらに追想的に迫害状況のフラッシュバックが生じ、むしろ現実的にはいじめが軽減した後に、著しい対人的不適応を引きずることとなる。
このへんの詳細な記載は同書の別箇所にあるので興味のあるひとは一読してみるといいと思われる。
最初の例に出てきた「妻」がアスペルガーキャリアだとすると、むしろ才気煥発な面が強く出ていたがためにあまりいじめを受けずに育った結果として素でああいう言動が出てしまうのか、あるいはいじめの結果として何らかのパーソナリティ障害の方向に行った挙句の果てなのか。真相は俺ごときにはわからない(そもそも小町の投稿が真実かどうかという話もあるけどそこは不問で)。
でも、同じような感じの人っていっぱいいると思うんだよ。とくに学業成績が良いとされるグループであればあるほどに。
「脳の使用箇所が異なる」という知見は成人アスペルガーの診断に使えないのかな
で、さらにもうひとつ思うことには、このへんを医学的にチェックする方法がもっと簡便に提供されないのかなあ、ということ。子供の診断が大事なのは無論なのだけど、診断の機会すら得られないまま単なる変な人扱いされ続けている成人のアスペルガーキャリアが多数いるのではないか、というのが俺の思うところ。せっかく「『心の理論』課題の遂行に脳の異なる部位を使っている」という知見が得られているのなら、それを診断に使えないのかなあ、問診による振舞いかたの確認と曖昧な基準による判別より、脳を直接スキャンして確かめられることがあるならそちらの方が信頼性が高そうだなあ、とか門外漢的には思うわけだけど、実際のとこどうなんでしょ。まだまだコスト的にとかリソース的にとか厳しいんだろうかね。