金魚運動で全て解決します。保存会

旧はてなダイアリー id:mrnkn で公開されていた日記です。更新はされません。

今宵、こんな文面をネットに垂れ流せる俺はリア充

「僕は間違ってなんかいない!間違っているのはあいつらの方なんだ!なんで正しい僕がいちいち理由を説明しなきゃいけないんだ!」
「あなたが正しいのと同じくらい、彼らだって正しいのよ……ううん、そうじゃないわね。もしあなたが彼らの居ない世界にいたら、正しいのはあなた。そして、もし彼らがあなたの居ない世界にいたら、正しいのは彼ら。でもそんなことを考えても何も現実の解決にはつながらないの。この世界にはあなたがいて彼らがいる、それだけのことよ」
そう言い終わるか終わらないかの刹那、少年が反駁しようとする口を、彼女は豊かなる胸でギュッと塞いだ。決して逃げ出さないように両腕ばかりか両脚まで絡めて抱きしめ、その体温と香りで包み込んだ。
からだじゅうが過熱しているに違いないと思ったけれど、その予期に反して彼の全身は、汗にまみれてはいたものの、自分よりも遥かに冷えきっていた。彼女は驚き、そして気付いた。
彼を駆り立てていたものは怒りでも憎悪でも、物事が思い通りにいかない鬱憤ですらもなかったのだと。
味方がひとりまたひとりと消えていき、前後左右のすべてが敵性体(F O E)のマークで埋めつくされていく。そんな幻影への恐怖なのだと。
どこでそんな幻影に襲われ、いつからそれをこんな勢いで破裂寸前まで増幅させ続けてきたのかは知る由もない。
いま、わたしがするべきなのは、その幻影から解放させることだ。
少年は口を塞がれながらも、脱け出そうと首と四肢を激しくばたつかせたが、彼女は離そうとしなかった。
でも、いつまでこうしていれば良いのだろう? 彼女はそこまで考えていなかった。
やがて少年は諦めたのか、体に込めていた力がそれを絡める彼女の体に伝わってこなくなった。
でも、いつまでこうしていれば良いのだろう? 落ち着かせただけで止めても仕方がないと思った。だってほら、彼の体は冷えきったままだから。長い間彼を蝕んできた恐怖はそう簡単に過ぎ去ったりはしない。
何分かが過ぎていった。
少年の体は未だ冷たく、吐く息のリズムだけが彼女のシャツ越しに熱を伝えていた。
いくらか塞がれた口元は緩んでいたが、少年は何も言おうとしなかった。
彼女は両腕にかけていた腕の力を一瞬だけ抜いて、ほんの数センチメートル、少年の体を自分の足下へ押し下げた。
意識してのことか否か、彼女自身もわかっていなかったが。
体と体がずれてゆく刹那、全身の触覚に、摩擦が伝わっていき。
少年の体が、その一部が、呼応して熱を帯びていくのに気がついた。
少年は自分でもそれに気付き、慌てて再び力を込めて彼女の両腕から逃れようとした。
彼女はそれを予期していたかのように、少年からすればフライングのようなタイミングで再び四肢の力を強め直す。そして、自らの胸の下に隠れる少年の耳許に向かってささやきかけた。
「ねえ、誰とも手を取り合うことなく、自分だけを信じて、ひとりでどこかへ行ってしまうの?」
少年は答えなかった。抱きしめられて苦しいので答えられない、という言い訳くらいできたはずだが、それもしなかった。
「わたしは嫌だよ……あなたがわたしのことを忘れてどこかへ行ってしまうのなんて、嫌だよ……」
互いの体が力み合うのが伝わる。
少年は口を開いた。何かを言おうとした、のではなかった。
「んっ」
ちょうどそこにあった、彼女の鳩尾に、唇を押し当てるように。
手も足も自由にならないので、代わりに唇で、接触を求めていた。人体の扱いにはまるで不慣れなその唇から舌を出すのは、まだ服の上だから、遠慮していた。
その様子が彼女の脳内にまた別の何かを迸らせる。
「んふ……」
何か言葉を発しようとしたのか、そう口元から漏れるだけで彼女自身なにか納得してしまったかのように、再び強まっていた腕の圧力を少しだけ緩める。

依然として、まだ少年の腕は自由になっていない。少年はいくらかの自由を得た首だけを上下に振って、彼女のシャツの裾を探り当てると唇に挟んで器用に押し上げ