金魚運動で全て解決します。保存会

旧はてなダイアリー id:mrnkn で公開されていた日記です。更新はされません。

銀座線と俺とゴリラブーツ

銀座線、休日、17時半。座って文庫本を読む俺。
ふたつ隣に、ブーツの箱の入った紙バッグを持ったミニスカの女性が座っていた。髪はそこそこロングめ。
ブーツといえばゴリラブーツ。もしかしてゴリブツさんかもしれない、という妄想が脳内を走り始めた。
その女性の対面、俺からみると斜向かいくらいの位置には男性が座っていた。その視線はチラチラと女性のミニスカ裾のデルタを窺っていた、ようにも見えた。ゴリブツさんのデルタがこっそりチラチラと男に侵されている。というシチュエーションで妄想が強化された。
その女性はどこか覚えていないが途中の駅で降りていった。すると、その対面にいた男の視線が俺の方に向いてきたのだった。もしやこの俺の妄想がバレたのか。俺はデルタなど窺っていないぞと無言の抗議を発しているのか。サトラレたか。いやぜんぜん関係ないのか。どことなくその視線の質は、むしろ先程までより今の方が妖しげだ。ふと見直せばガタイもかなりのものだ。もしかしてあれか、オッスオッスか。ウホッなのか。君は阿部高和か。
いつのまにか男性も電車を降りていた。どうやらオッスの危機は杞憂だったようだ。


しかし終点に到着し、乗り換えに向かう俺の背中に、途中からピタッと尾行がついたのに気がつく。改札も真後ろから同様に通過し、乗り換え先のホームでも後ろに並ばれた。振り返って確かめる機会は何度もあったし実際そうしようとしたが、90度ほど振り向いたところで、見えるはずのないものが見えて、それ以上は振り向けなかった。
ロングの髪とミニスカと、そして手に提げられたブーツの箱。
まあいい、衆人環視のもとで滅多なことはできないだろうし、俺には何の瑕疵もない。次の電車で座ってしまえば背後をとられることもあるまい……そう考えて自らを安心させ、入ってきた電車の座席を確保することに全力を集中した。
扉が開き、首尾よく俺は空いていた座席の端に座る。すると後ろにつけていたその人影は、なにを隠すわけでもないといわんばかりに俺の正面に立った。俺は努めて何も気づいていない素振りを心掛け、前を見上げるでもなく、さきほどまでと同じく文庫本を開いて目を伏せた。首から上は見えないが、確かにさっきと同じミニスカートで、ブーツの箱の入った紙バッグを両脚の間に挟んでいた。
しばらくして電車が出発する。前に立つ女性の左手がモゾモゾと動き、小さな紙片を取り出した。紙片はその手をフワリと離れ、俺の開いていた文庫のページを覆うように舞い降りてきた。俺は引き続き平静を装って、落ちましたよと返すつもりでその紙を手にした。しかしそこにはっきりと、筆ペンで書かれた文字をみて、俺は体温を失った。

さっきのウホッな男の人も
グルですよヽ(´ー`)ノ
           ゴリブツ

半ばオートマティックに顔を上げて、俺はその顔を初めて正面から確かめた。
確かめたはずなのに、俺はその顔を覚えていない。なぜなら、そこから先しばらくの記憶が途切れているからだ。


次に気がついたとき、俺がいたのは自室のベッドの上だった。その風景は出掛ける前と変わるところもなかった。違っていたのはシーツの上に遺されていた、蜂蜜をこぼしたような数滴のシミ。そして、着衣がすべて脱がされて、足許に畳んで置かれていたことだった。
その、畳まれていた服の上に、記憶の飛ぶ前と同じく、小さな紙片がフワリと置かれていた。

明日の画像を
お楽しみにヽ(´ー`)ノ
           ゴリブツ


もし、明日はてなダイアリーが終日ダウンするようなことになったら、ひとりの愚かなユーザがいたことを暫しのあいだ思い出して、そして忘れてほしい。


※この文章のほとんどはフィクションであります。ほとんどは。